水戸地方裁判所 昭和33年(ね)13号 判決 1958年11月28日
申立人 小貫常一郎
決 定
(申立人氏名略)
右の者の申立にかかる訴訟費用執行免除申立事件につき左の通り決定する。
主文
本件申立を棄却する。
理由
一、申立人は、当裁判所が昭和三三年一〇月三一日申立人に対する窃盗、公務執行妨害、及び傷害等被告事件について言い渡した判決により、訴訟費用の負担を命ぜられた者であるが、本件申立の理由は、申立人は貧困のため訴訟費用を納付する資力がないというのである。
二、よつて審査するに、当裁判所の照会に対する栃木県芳賀郡二宮町長の回答書によれば、被告人及び家族の生活程度は裕福であり、被告人及び家族の収入及び資産状況は、収入は年収一八四二二〇円位資産は一六三六五〇〇円相当の不動産(動産は不明)を有する事実が認められる(以上の事実は前記刑事々件記録によつても優に、これを認め得るところである)。
前記の資産は被告人の現状及び被告人の父親の年齢等により、考察すれば恐らく現在は、その大部分又は全部が被告人の父親の所有であるかも知れない。
三、しかし長男である被告人は本籍地において、父母と共に農業に従事し、一家が一体をなして裕福な生活をしているものであることが刑事々件の審理の際も認められたのである。
換言すれば被告人は形の上では親に扶養されているが親と共同して裕福な農業生活を営んでいる者であり、被告人の日常必要な生活費用一切は小貫家という家族協同体から、その代表者ともいうべき父親の手を経て支出されているのであつて、このような場合には訴訟費用もまた生活上の必要的出費の一つと認めるのが妥当であるから現に前記刑事々件審理の際も被告人の父親において、審理の中途に弁護人を私選し弁護を依頼しているのである)、訴訟費用についても一般の生活上の必要的出費と同様、被告人が構成員の一人である家族協同体から、父親の手を経て支出納付されることが十分に期待されるところであり且つ又そうすべきであることが当然といわなければならない。
四、訴訟費用の負担を命ぜられた者自身は格別の個有資産を有せず別個独立の生活能力を有しなくても、親や兄などと共同して業を営み又は親や兄の手伝いをして一個の家族協同体を構成して不自由なく裕福な日常生活を送つているような場合に、その者自身は特に自己の資産を所有しないという理由で生活の必要的出費の一つと認むべき訴訟費用を免除されるということになれば、それは余りにも健全な常識に反する不当不合理な事象であるといわなければならない。このような状況にある場合は、もはや貧困のため訴訟費用を完納することができない者には当らないと認めるのを相当とする。被告人は正にこのような場合にあたるものと認められ、従つて刑事訴訟法第五百条第一項所定の事由がないものといわなければならない。
よつて本件申立は理由がないから主文の通り決定する。
(裁判官 花岡学)